Apple Monday


キッチンから音がする
しばらくすると花井君が新しい黄緑色のお皿を持ってやって来た。
そのお皿からは甘い、おいしそうなリンゴの香り
その香りは狭いリビングを漂わすには十分だった。

「食べてみてください」
コトッとテーブルにそのお皿を置き、私の真正面に彼はゆっくりと座った
お皿を見るとそこには綺麗に焼けたパンケーキがのっていて、
その上には黄金色のソースがかかっていた。
「綺麗・・・」

美しく食欲を誘う甘い香りに思わず、うっとりととため息をつく
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
彼は頬杖をつきながら私をじっと見据えた


「・・・いただきます」
おそるおそるフォークを手にし、ソースを付けたパンケーキを一切れを口に運ぶ

「!?・・・・お・・おいしいー!!」
口いっぱいに広がるリンゴのおいしさに私は驚いた

「でしょ?」
にっこりと満足そうに微笑む花井君
私は興奮しながら花井君につめよった

「なんで?なんでこんなにおいしいの?コレ本当にさっきのリンゴなの!?」
「紛れもなくこれはさっきのリンゴですよ
ちょっと手をくわえて焼きりんご風ソースにしたんスよ」
「このソースがあのリンゴ!?・・・へえー・・・」

「ハイ。手を加えればこんな風にとびきり美味くなるんですよ」
そう言って花井君は再び満足そうに微笑んだ。
「でもいくら手を加えたとはいえ、あんなにおいしくなかったのに・・・不思議ね」

「まりあさんそれは違います・・・この美味しさは元々このリンゴの実力ですよ」
「?」
それはどういう意味だろう?さっぱりわからない・・・


花井君は微笑ながらこう続けた
「このリンゴはもともと美味しいんです。でも時間がその美味しさをかすめちゃったんですよ」
「え?」

「その美味しさをとり戻すのが加熱です。リンゴはこんな風に加熱すると甘くなるんです」
「ふ〜ん」
パンケーキをぱくぱくと食べながらうなずく

「でも加熱だけじゃダメなんです。
特に焼きリンゴの場合それを引き立たせるものが必要です。
濃厚さと芳醇な香りを放つバター、甘さを補いしっりとしたとろみを加える砂糖、
アクセントで魅力を引き出すシナモン。
それが合わさるとこんなにも美味く、生のリンゴには決して出せない魅力的なものになるんですよ」

「でもさ・・・新しいリンゴでも別にいいんじゃない?」
「う!?」
花井君が一瞬ひるんだ

「確かにいいんだけど・・・俺はしっとり感からいっても
加熱するのは断然時間の経ったリンゴの方が好きです!」
目をキラキラさせながらなおも続ける

「それに時間の経ったリンゴは自分が手を加えないと美味くならない隠れた魅力が
あるところもいいじゃないですか!」
漫画だったらここで間違いなく「どーん」と擬音が鳴るに違いない

・・・言い切った・・・この男・・・

たかがリンゴ・・・
されどリンゴのことで・・・


いつもなら呆れるけど
今日はその言葉が妙に嬉しい・・・


「・・・花井君って・・・やっぱり変・・・
あえて手がかかることが好きだなんて・・・苦労症なの?」
最後の一切れを花井君の口元に向けながら私は言った


ぱくんと最後の一切れをもしゃもしゃと食べながら花井君は
ちょっと拗ねた表情をし、
「どうせ俺は変ですよ・・・苦労症ですよ・・・」とポツリと呟いた








「ねえ?」
「・・・・・・はい?」








「私のこと・・・・・・・・・・・どう思う?」














「ブッ!!・・・っ、なんスか!?突然!!」
あ・・・動揺してる!目が泳いでるし、顔赤い・・・




「私7つも年上だよ?」


「知ってます!イヤという程に!!」
苦々しい表情をしながら彼は静かに怒鳴った




「すぐ・・・あっという間におばあちゃんになっちゃうよ?」

「・・・・・だから?」
今度は冷淡に呟く




「それでもいいの?」
「っ!・・・当たり前じゃないスか!!」
ちょっと怒ったように強い口調で言ってきた





「だって・・・シミとか背中とかに出来ちゃったし、
皺だって、お肌のハリだって・・・!!」





しばしの沈黙







間をおいて
「・・・・・プッ・・・」と
彼の顔が可笑しそうにゆがみ、ついに彼は大声で笑い出した