あなたへの挑戦状
これはあなたへの挑戦状
目を見て言わなきゃはじまらない。
俺はこの日が来るの待っていたんだ・・・。
前から・・・
そうあの気持ちに気がついたあの日から・・・
3月はじめの早朝、俺はひとり西浦の第二グラウンドの入り口にきていた。
梅の花がほころび始めた春先なのに明け方はまだまだ寒い。
冷たい空気が口や鼻を通し真っ白な息がはあぁぁ〜と空へ広がって消えていく・・・冷気が肌にピリピリと感じるが、俺の両手は真夏日のように汗ばんでいた。
その手をぎゅっと握り締め、気持ちを落ち着かせるためにひとつ大きな深呼吸をする。
「大丈夫・・・大丈夫だ・・・」
今まで何度も大舞台を経験してきた。
プレッシャーにも前よりは随分強くなったし、昔よりは度胸もついたはずだ。
「よーし!」

勢いよくパンパンパンと3回頬を叩き、第二グラウンドの入り口から野球部のグラウンド目指し一気に走り出した。
叩いた頬の痛さが朝の冷たい澄んだ風にあたり心地いい。
あたりはいつもと違いシーンと静まり返っていて、朝もやが幻想的な雰囲気をかもし出している。
その中をただひとり走っている俺。
毎年この日はどこの部活も朝練休みが恒例。
もちろん野球部も例外ではなく、今日の練習はない。
でもまぁ、昨日卒業した俺にはそれさえももう関係ないのがちょっと寂しい・・・・そんなことをぼんやりと考えながら走っていたら、ほどなくしてグラウンドのバックネットが見えてきた。
ドキっとした。
グラウンドにはすでにあなたがいたから。
俺は気持ちを落ち着かせるようにゆっくりとあなたのもとへ走りよった。
「お・・おはようございます、監督」
「おはよう、花井君。今日も寒いね。ほっぺた真っ赤だよ?」
うぐっ・・・
頬が赤いのは寒さのせいだけじゃねーんですけど・・・
横でくすくすっと可愛らしく微笑む監督の笑顔に見入ってしまう。
この微笑をみれただけで幸せで舞い上がってしまいそうだ。
我ながらおめでたい奴だと思いながらも、頬がじんわりと熱くなるってきている自分に必死で気づかないフリをする。
とりあえず挨拶は自然に行えたようだ。
その後も何気ない会話を二言三言・・・
よし、思ったよりも緊張してねぇし、ちゃんと会話出来てる!
「今日は練習がないのに、朝早くスイマセン。大丈夫でした?」
「ううん、いいのよ。どうせこの時間習慣で早く起きちゃうしね。
ところで今日は私に何か用かな?」
ドキッ・・・
突然今日の核心部分に触れてきたあなた
決心はついていたのに・・・俺の心拍数が再び跳ね上がる。
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ・・・・
俺死ぬんじゃねーのか!?と思うぐらい、経験したことのないような早さで心臓が脈打ってる
ヤベぇ・・・・・・マジで、き・・・・緊張してきた・・・・
俺の目の前から白い息がひっきりなしに空へ広がる。
体は汗をびっしょりかいているのに、寒いのか暑いのかわからない。
ただ握った拳がまた汗だくになってきて、手の震えが止まらない。
極度の緊張で気持ちわるい・・・立っているのがやっとだ。
逃げ出したい!!
堪らず俺は俯き、ぎゅっと目をつぶった。
でも・・・この日の為に俺は今まで頑張ってきたんじゃねーのか!?
あんなに辛い練習もあなたへの想いも3年間耐えてこれたんじゃねーのか!?
すべてはどうしても欲しかったあなたを手に入れるためだったからじゃねーのか?
なぁ?
ゆっくりと顔を上げ、まっすぐにあなたを見つめる。
目をそらしたくなるのを歯を食いしばりながら我慢した。
あなたはこれから俺が挑戦状を叩き付けることをまだ知らない・・・
様子のおかしい俺を小首をかしげながら心配そうに見ている。
俺はもうあなたの教え子じゃないから・・・あなたを見ているだけじゃ嫌なんだ!
意を決した俺の、あなたへの挑戦が今始まる。

「・・・・・・・・・・・・・・監督」
「どうしたの、花井君?大丈夫?気分悪いの?」
「ハイ・・・大丈夫っス。
・・・あの・・・それよりも今日は監督に・・・大事な話があるんです。」
「話って何?」
「俺は監督のこと・・・・3年間、ずっと傍で見てきました。
あなたのことをとても尊敬しています。
でもそれ以上に・・・もう監督として見れないぐらい・・・あなたのことが・・・
ずっと・・・ずっと・・・好きなんです。俺と・・・・・・付き合ってもらえませんか?」
言った・・・
ついに言えた!
言いたいことは沢山あったし、言いたい想いは言葉以上にあふれ出していた。
でもどうしたってこの想いを全部伝えるのは無理だから・・・
必要な言葉だけ選んでこの日のために告白の練習をした。
緊張はピークに達していたが何度も練習した甲斐あって、肝心要の言葉は出たようだ。
三橋並みに少しどもってはいたけれど・・・
俺の一世一代の挑戦状を監督は目をそらさずに真剣に聞いてくれた。
監督は一瞬驚いた表情をしたがすぐにうつむき、無言で両腕を組む仕草をした。
・・・この仕草、何かを考えている時にする監督のクセだ。
ということは・・・・・やっぱり困ってる!!
言い切った安心感と結果を知りたいけど知りたくないような少しのワクワクと、とてつもない不安と、ありえないぐらいの緊張感。
またこの場から逃げ出したくなる衝動に駆られる。
俺も馬鹿じゃない。こんなことしたって大体結果は分かっている。
でも後悔はしてない・・・・好きだから。
3年間必死に押さえつけていたこの気持ちにどうしても、決着をつけたかったんだ。
たとえ俺のエゴだとしても・・・。
あれこれ考えていら、俺を見つめる視線に気がついた。
「・・・・ありがとう、花井君」
ちょっと微笑んで、ちょっと困ったような表情を浮かべながら
「でも・・・・」といいよどんだ。
でも・・・・
ああ━━━・・・・やっぱり・・・だよな・・・。
肩を落とし、ため息を付きそうになった瞬間、
あなたは不敵な笑みを浮かべ、とんでもないことを言い放った。
「私、イイ男じゃないと付き合う気になれないの。
私を振り回すぐらいの男前じゃないと、恋愛対象として見れないわ。
だから私のイイ男の基準はすっごく高いわよ。
花井君はそうなれる自信、あるかしら?」
「・・・・・・・は?」
予想外の発言にあっけにとられる俺・・・。
答えの意味が分からず、頭も体もうまく動いてくれない。
いつまでもポカン・・・・と開いた口がふさがらない俺に
「こんなことで驚いてちゃ、まだまだね。やっぱり私のことは諦めたら?」
そういってあなたは一瞥しただけで、くるりと背を向け歩き出した。
・・・ちょっと!ちょっと、待てくれ!
コレって振られた?
イヤ、振られたっていうより・・・挑まれたのか!?
つうか・・・早くとめねーと、あの人がどっか行っちまう!!
「監督!ちょっと!ちょっと待ってください!」
どうにか声を絞り出す。
聞こえていないのか、それとも無視を決め込んでいるのか、
彼女の歩みは止まる気配すらない。
・・・ッチ・・・くそ!
俺は固まった体を気力でなんとか動かし、息を切らし前へ飛び出した。
突然歩みを止められたあなたは、あら?という風に眉をひょいとあげた。
「なんで・・・無視するんですか?」
「あら、だって私のこと監督としてもうみれないんでしょう?」
「それは!・・・・そうですけど・・・」俺はなんともいえず、目をそらした。
「で、どうするの?」
つんとすました表情であなたは覗き込むように俺に聞いてきた。
俺はさっきあなたが言った言葉を思い出し、考えた。
「それって・・・イイ男の基準に今の俺は達していないけど・・・見込みはあるって意味ですよね?つまりイイ男になって自分を超えてみろってことっスか?」俺は恐る恐る聞いてみた。
「花井君がそう思うのなら、そうなんじゃないの?」
相変わらずのすまし顔でサラリと答えた。
とんでもねえ!!
やっぱりアンタはとんでもねー女だ!
今やっとの思いで告白した男に「自分を超えてみろ」だって?
イキナリの無理難題。
普通告白した男相手にこんなこと言うかよ!?
とんでもなく無敵のアンタに俺なんか敵いっこないだろ!
でも・・・
諦められることなんて絶対に出来ないことだけは分かっている。
俺は諦めが悪いタチなんっスよ?
だったら・・・
「俺は負けず嫌いだし、我慢強いし、努力家なこと知ってますよね。
可能性がゼロでないなら、無謀でも俺は挑む男なんっスよ。
2年・・・イヤ、1年半で絶対にあなたが望むイイ男ってヤツになって、
あなたから告白されてみせますよ!!」
ビシっ!と俺は声高々に宣言した。
「随分威勢がいいじゃない!さっきまで泣きそうな顔してたのに!」
ニコっと年齢に似合わないいたずらっ子のような笑顔。
その笑顔がいままでのどの笑顔よりもすごくすごく可愛くて・・・俺の心に火をつけた。
今まで燻ぶっていた俺の小さな火種に新鮮な空気を送り込んだのはあなた。
炎が勢いよく一気に体の中を舞い上がる。
その勢いは凄まじく
ゴオオオオオオオオオ━━━・・・
つま先から頭のてっぺんまで燃えるように体を熱くした。
この炎の勢いはどうやったって止める事は出来ないだろう。
俺をこんなにした責任、とって貰いますからね
だから・・・
「俺だけ・・・俺のことだけ見ててください!」
「本当に花井君に出来るならね。頑張ってみれば?」あなたは心底楽しそうに微笑んだ。

このワクワクした高揚感。
なんでだろう?
振られたハズなのに可笑しくて嬉しくて堪らない。
挑んでやるよ、あなたからのこの挑戦状!
まってろ、百枝まりあ!
絶対に振り向かせて、その微笑を俺のものにしてやる!
野球より俺に夢中にさせてやるからな!
おれは思わず再び拳を握り締めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あとがきです。
花井君視線の高校卒業後の告白話です。
実は「
カップリングなりきり100の質問」の「027.告白はどちらから?」の内容をモチーフにしています。
「カップリングなりきり100の質問」の質問の答えを考えてから、大体のイメージは出来ていたのですが、書いて見ると・・・うーん・・・纏めるの難しかったです。やっぱり文は苦手です。
一応この作品のタイトルは「花井君→モモカン」から「モモカン→花井君」と2重の意味があります。
ちなみにこの時点でモモカンは花井君の気持ちに前から気づいていて、異性として少し意識してます。
本心はとっても嬉しい・・・でもそれ以上に葛藤の部分が大きいんです。
今までの関係性や、年齢・・・花井君はまだ若いし、大学生になって新しい世界を知ったら自分を諦めるかも知れない。そうなってほしいけど、そうならないでほしいみたいな、複雑な心境。それに自分が7つも年下の花井君をこれから恋愛対象として見て、ずっと好きでいられるかどうかという不安・・・。
余裕な態度は実は見栄。
とりあえずモモカンはキモチを整理をする時間がほしいみたいです。
だから花井君に提示したイイ男うんぬんは、面白がっているけど、実はモモカンはあんまり重点を置いていません。
ソレを知らずに花井君は1年間イイ男になるべく涙ぐましい努力をするわけです(笑)
そう考えると花井君の気持ちに火をつけといて結構ズルイ女ですね。
なにげにヒドイ(笑)でも花井君は苦労がお似合いなんで、コレはコレで幸せかもね。
まぁ・・・惚れられた方が優位なのは間違いないです。